ベトナム市場で自社の商品やサービスを爆発的に認知させたい。そう考えたとき、日系企業のマーケターや現地駐在員が真っ先に描くプロモーションのシナリオは共通しています。
まとまった予算を投じてデジタル広告を回し、現地の人気KOL(インフルエンサー)を起用してSNSを賑わせ、街の一等地を陣取る巨大な屋外看板(OOH)で一気にブランド認知を塗り替える。非常に美しく、王道とも言える戦略です。
しかし、その輝かしいマーケティング計画の中に、一瞬で企業を破滅させる「法的な地雷」が埋まっているとしたらどうでしょうか。
現在、ベトナム政府は「違法広告・誇大広告」への取り締まり(政令Decree No. 38/2021/ND-CPおよび最新の改正政令)を劇的に強化しています。日本の「いつもの感覚」のままキャッチコピーやビジュアルを作ると、ベトナム進出早々に高額な罰金処分と、築き上げた信頼の失墜という最悪のスタートを切ることになります。
「知らなかった」では済まされないベトナム広告法・規制のリアルな罠と、リスクを回避して1位の成果を掴むための現場の視点を、実例とともに紐解きます。
言葉の罠:悪気のない「No.1」が、110万円の罰金と強制撤去に化ける理由
日本でのマーケティングやバナー広告で見かける「顧客満足度No.1」や「最高品質のサービス」といったお決まりのフレーズ。ベトナムの広告マーケットにおいて、これらは「違反確率100%の超危険ワード」です。
🛑 最上級表現に関するベトナム広告法の厳格なルール
ベトナムの法律では、「最高(Nhất)」「唯一(Duy nhất)」「No.1(Số 1)」「抜群(Tốt nhất)」といった最上級を意味するキャッチコピーを使用する場合、政府が公的に認めた第三者機関や調査会社が発行した「公式な証明書(エビデンス)」の提出を義務付けています。私たちが使いがちな「※自社調べ」という免罪符は、現地の役所には1ミリも通用しません。
もしデジタル広告であれば、指摘を受けた瞬間に管理画面からコピーを修正すれば実害は最小限で抑えられるかもしれません。しかし、これが街中のビルボードやLED看板といった「物理的な屋外広告」だったらどうなるでしょうか。
法人に対して科される1億8,000万ドン(約110万円)の罰金通知が届くだけでは終わりません。数百万円、あるいは数千万円の投資をして設置した看板を「全額自腹で、今すぐ強制撤去せよ」という行政処分が下るのです。悪気のない一言が、取り返しのつかない致命傷に化ける。これが現地の厳格な審査基準です。
ビール大国ベトナムの矛盾:「15度の壁」に阻まれるアルコール広告規制
世界屈指のビール消費国であり、毎夜のように街の至る所で乾杯の歓声が響くベトナム。一見するとアルコールに対して非常に寛容な国に見えますが、こと広告法における酒類規制に関しては、世界トップクラスに冷徹な網を張っています。
新商品の認知拡大や飲食店への集客を狙う日系飲料メーカーの前に立ちはだかるのが、有名な「15度の壁」です。
| 対象となるアルコール度数 | ベトナム広告法上の規制内容とリスク |
|---|---|
| 15度以上 (ウイスキー・焼酎・多くのワイン等) | 映画、ネット、屋外看板を含め、あらゆる一般向けメディアでの広告掲載が全面的に禁止されています。違反時は最大2億VNDの罰金。 |
| 15度未満 (ビール・低アルコールサワー等) | 広告自体は許可されています。ただし、「18歳未満の出演禁止」「妊婦向けメディアの制限」に加え、テレビ・ラジオでは18時〜21時のゴールデンタイムの放送が法律で一律禁止されています。 |
現地のマーケットの熱量や勢いだけで「これくらいはいけるだろう」と見切り発車したプロモーションは、メディア側の考査や文化スポーツ観光局による審査段階で、手痛いペナルティや却下処分を受けることになります。
インフルエンサーの闇:「タレントが勝手に言った」が通用しないSNS連座責任
現在、ベトナムでのWebマーケティング戦略において、主軸を超えて必須となったのがKOL(インフルエンサー)やライバーを起用したプロモーションです。しかし、急激な市場拡大に伴い、ここが今、政府機関が最も激しく目を光らせ、抜き打ちの行政処分を乱発しているホットスポットになっています。
ベトナムでもステルスマーケティング(ステマ)やサクラ行為への規制網は完全に構築されました。インフルエンサーが個人の愛用品を装って化粧品やガジェットを勧めても、裏で企業から費用や物品の提供がある場合、明確に「広告(Quảng cáo)」であると動画内や投稿文に明示しなければなりません。これを怠れば、企業とインフルエンサーの双方が即座に違法摘発の対象となります。
さらに近年深刻なのが、ライブコマース(生配信)やショート動画でのトラブルです。画面の向こうで興奮したインフルエンサーが、「このサプリ、1週間で絶対に5キロ痩せます!」と台本にない誇大表現や不適切な効果効能を口にしたとします。
このとき、「タレントがアドリブで勝手に言ったこと」というブランド側の言い訳は一切通用しません。ベトナム政府はスポンサーである企業側を虚偽・誇大広告の主犯とみなし、最大1億6,000万ドンの罰金や、最悪の場合はベトナム国内での営業ライセンス一時停止という、文字通りの「一発退場」を突きつけてきます。
結論:ベトナムでの広告展開は、現地法務と申請ノウハウを持つパートナーが不可欠
ベトナムの複雑な広告規制をクリアするために本当に必要なのは、机の上の法律マニュアルではありません。「現地の役所が、今まさにどの表現や業界をターゲットに据えて動いているか」という、リアルタイムの生々しい現場感です。
特に、街のシンボルとなり企業の顔となる屋外広告(OOH)や各種看板設置は、街中で最も目立つがゆえに、役所からの抜き打ちチェックや厳格な事前申請手続きが必須となる領域です。
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